卵嚢を守るイオウイロハシリグモ、漢字で書くと硫黄色走蜘蛛、思わせぶりな名前だが、実は普通にいる蜘蛛で珍しいものではない。葉裏に吊り下げたこの卵嚢は最近運んできたものだろう。既に卵嚢は熟し、小さな半透明のゾエアみたいな赤ちゃんが溢れ出て蜘蛛の糸に絡んでいる。ためしに母親を指で突いてみたが逃げる気配はなく、逆にこの経験豊富にして不器用な老人に対し、ファイティングポーズで威嚇してきた。母は強し、命がけで守っているのだ。親の愛情に応えるように赤ちゃんが一匹、親の背中に這い上がり、無駄に目玉がたくさんあるその顔に抱きついたが、親は容赦なくこれを振り払った。これが野生の流儀だ、と言わんばかりに。
ヒヨドリの鳴き声だけが響いていた。
22/10/30 8:02 OM SYSTEM OM-1, M.ZUIKO ED 60mm F2.8 Macro, f8 1/80 ISO3200