
むかし、野原も池も山も子供たちにとって最高の遊び場だった。好奇心でいっぱいの子供たちは自然の生き物にいたずらするのがたまらなく好きだった。それはとっても自然で、あまり悪いこととは思われなかった。池のあたりで甲羅干しをしているカメがいれば棒でつつき、カメが手足、首を甲羅の中に引っ込めるのを見て楽しんだ。ザリガニのハサミをちょん切って池に放した。カエルは尻の穴にストロー(当時は麦わらの中空の茎)をつっこんで、思い切り口で空気を送り込み、風船のようにふくらました。子供に罪の意識は何もなかった。
その日も三人の男の子がカメにいたずらしていた。その対岸の葦の茂みの影では、水の中から二匹の河童がその光景を見ていた。カメもザリガニもカエルも、河童にとってはみんな仲の良い友達だった。いじめられているカメを助けたかったのだけれど、自分たちは妖怪である。河童の姿を見たら子供たちは驚くに違いない。幼い子供たちを怖がらせたくなかった。そこでカメを子供たちから解放するため、二匹の河童は相談して、相撲を取ることにした。当時相撲は人気のあるスポーツであり最高の娯楽だった。河童たちはそっと陸に上がると、木の枝で地面に土俵の円を描いた。そして相撲を取り始めた。「エーイ」「ノコッタ、ノコッタ」と大きな声を上げて、相撲を取った。
カメをつついていた子供たちもその声に気づき、「なんだろう」と対岸を見ると、河童が相撲をとっているではないか。子供たちは恐る恐る、池を回って河童の方に近づいて行った。
子供たちが寄ってきたので、河童の相撲にも力が入った。お互いに押したり引いたり投げたり、本格的な相撲になった。それを見て子供たちは喜び、手をたたき、カメのことなどまったく忘れた。河童はうれしくて、楽しくて、疲れも忘れて相撲を取り続けた。子供たちは地面に座り込み、熱心に相撲を観戦した。やがて、その子供たちの親と思われる大人も集まってきて、河童の相撲に手をたたき、声援を送った。人間たちが本当に喜んでくれるので、河童はとうとう相撲をやめることができなくなった。そして昼も夜も休まず相撲を取り続けた。
今でも、水辺の生き物を守るために、二匹の河童は池のほとりで相撲を取り続けている。